記憶の旅 中庭光彦の研究室

都市や地域の文化について

地域開発政策の転回点-魅力調整ガバナンスの時代

 私の専門は地域政策、開発政策史である。と言うと、常識的には地域活性化、すなわち条件不利地域に補助金をつぎ込み経済成長に持ち込もうとする開発政策の日本版を思い起こされるだろう。これまで都市集積の中にコンベンションをツールとしたコミュニティネットワークをつくる研究や、多摩ニュータウンと郊外・水道の開発政策史、水資源開発の文化と、成長期の都市と地域の開発戦略を調べてきた。この時の課題は、成長そのものの推進と並行して起きる行きすぎる開発、混雑問題、格差、環境問題といった負の側面として意識されたものだった。


 しかし、社会における移動インフラ・情報インフラが大きく変わろうとする中、新たな開発像が必要となっている。人口減少はたいへんな問題だが人口ボーナス期の人々が退出するに従い一定の水準に落ち着いていくだろう。それを日本だけで考えるよりも海外との関係で考えるならば、移民も増えてくるに違いない。
 その移行期にある現在、人的資本、物的資本、空間資本といったストックの価値が、魅力という情報によって左右されるようになっている。魅力=ソフトパワーと言ってもよい。

 魅力は紛争でぶんどり合戦しなければならないようなゼロサム資源ではないから、魅力をつくる競争は物騒なものにはならないだろう。しかし、魅力低下につながるような資本、例えば放置された空き家、歴史を感じさせない大量生産住宅、教養を教えない学校等は、調整が迫られるだろう。この調整は市場の原理だけではうまくいかない。どうしても民主的なガバナンスが必要となる。

 観光まちづくりとは、実は、魅力調整ガバナンスを地域レベル、国レベル、海外広域圏レベルで機能させる方法なのだ。